■自作シンチレーション検出器の作り方と性能評価 / かにこむ青木
注:本コンテンツ中に出てくる「ポケットガイガー」「ポケガ」とは、radiation-watch.orgが企画販売するスマートフォン接続用の線量計「PocketGeiger」(Type-1)のことを指しています。2012年4月より秋月電子で取り扱いのはじまった「ポケットガイガーキット」とは異なりますのでお間違いなきよう。
今、ようやく値も落ち着いてきた線量計。でも、高性能なシンチレーション式の線量計はやっぱ高いです。GM管式の線量計は随分前から自作して遊んでいたのですが、街中に普通に放射性セシウムが落ちている今のこのご時世、シンチレーション式の線量計も欲しいなぁ・・・と。
堀場 Radi PA-1000 や Polymaster PM1703-MO1 を買ったのですが、買っただけでは飽き足らず、なるべくお手軽に、かつ、安く、しかも、ある程度の精度を持つシンチレーション式の線量計を自作しようと思い立ち、2011年末から実験試作を始めました。気が付けば堀場 Radi PA-1000 を2台買ってまだお釣りが来るほどの実験投資を行ってしまっていました。あぁぁぁ・・・
そんな試行錯誤の連続状態な、自作シンチレーション検出器の作り方、性能評価結果のご紹介です。
検出器の駆動プラットフォームにはポケットガイガーKit Type-1(以下ポケガ)を使っています。もし同じことをされる場合は、必ず電池外付けのType-1を買ってください。電池不要のType-2は、この手の改造ベース基板には向きません。
ポケガを分解して基板を取り出し、PDを全部外します。私はいろんなPDで性能評価するために、PDがあった場所にICソケットを載せ、いろいろなPD(+CsI)を付け替えて実験評価できるようにしました。が、単にポケガの高感度化を行うだけでしたら、こんなことするとノイジーになるだけなので自作検出器PDの足を直半田したほうがいいです。
非常にハイゲイン、ハイインピーダンスな回路なので、電池を含めた基板全部を真鍮板ででっちあげたシールドケースに入れてしまいます。この手のシールドにはよくアルミ板が使われますが、私ははさみで切れる 0.3mm ぐらいの真鍮板を好んで使います。なんと言っても半田付けできる点が超絶便利です。
部品代は全部合わせて1万円以内。
ポケットガイガーを使わないでも、いきなりオペアンプで駆動回路を自作してももちろん可です(その道チョイスの人はこちらにどーぞ)。
■身の回りのもので作る、現時点でbestな自作シンチレーション検出器
そりゃ光学セメントとか使えるなら使いたいところですが、なかなか普通には手に入りません。なんとか身の回りにあるもので性能のよいシンチレーション検出器が作れないものか・・・
話は結論から・・・ということで、今まで数多くの試行錯誤を繰り返し、多くのPDやCsI結晶を犠牲にすることで得られた知見から、私が現時点でbestと考える自作シンチレーション検出器の作り方をご紹介します。
●用意するもの
- S6775 / 浜ホトPD(秋月)
- 10mm角CsI(Ti)結晶(秋月)
- ピタガラス / 紫外線硬化接着剤
- UV照射器 / LEDとか蛍光灯とかネイルアート用のとか・・・
- 水道用の白いシールテープ(無粘着のもの)←CsI結晶に巻いてあるものの再利用でも出来ないことはない
- 黒ブチルゴムテープ(黒の電工テープ(所謂ビニールテープ)でも可とは思うが伸ばして密着するブチルゴムテープのほうが安定性がよさそう)
- 百均で売っているプラのクリップ(←これ必須)
- ゴム手袋か、ビニール手袋
- ピンセットもあると便利
CsI(Ti)は潮解性が低いとされていますが、出来れば湿度の低い、天気のよい日に室内で作業しましょう。また、直接手で持たないように、注意してください。
●PDとCsIの接着(所要:慣れれば30分間以内)
ここで使用している紫外線LED(NSPU510CS / 375nm)の出す紫外線は大変に強力です。絶対に直視しないでください。UV保護メガネをかけるか、あるいは、発光時にはLEDが視界に入らないようにするか、とにかく直視しないよう、充分に注意してください。
実際私は、UV LED発光時に50cmぐらいの距離からCsIへの光の照射具合を十秒間ぐらいか? 見た程度で、後から目がチカチカしだして快復するのに数日間を要しました。
はじめに、PDをすぐに持てる場所に置きます。
ここからは時間との勝負。少し本気で手早く、しかし、慎重に作業します。CsIの結晶を空間中に暴露してから、PDにはっつけるまでの時間は短かれれば短いほどいいです。
CsIの結晶を袋から出し、百均クリップとピンセットを使って、巻いてある白いシールテープを丁寧にはがします。はがし終わったら、結晶に1面だけある研磨面を素早く探し出し、ピタガラスを少し垂らします。1、2滴で充分な感じ。まさかとは思いますが太陽光が入るところや、紫外線がある環境下ではやらないでください。いきなり硬化してしまいます。そしてすぐさま、PDをはっつけます(貼りつけるというより、載せるという感じか)。
はっついたら、PDが滑り落ちないように注意しながらピンセットでCsI結晶を持ち、百均クリップでPDとCsI結晶が密着するように、しっかりと挟みます。このしっかり感が重要です。PDとCsIの間のピタガラス層は、可能な限り薄くします。ピタガラスがはみ出ますが無問題です。
ここまで出来たら、あとはのんびりで大丈夫です。CsIの周囲がちょっとぐらい潮解したってどってことありません。
ピタガラス接合したPD+CsIに、紫外線照射します。私は今まで、UV硬化接着剤というものを使ったことが無かったので、日亜化学工業製 375nm UV-LED NSPU510CS を4発直列に繋ぎ、これを17mAで駆動するというUV照射器を自作、はじめのうちは4時間ぐらいUV照射していたのですがこんなにすさまじいパワーは全く必要ないらしく、いろいろ実験しているとこの照射器であれば、ものの数分で完全硬化するようです。
みなさん各自で工夫されてください。ネイルアート用の照射器でも大丈夫ですし、晴れた日に太陽光下に数時間置く程度でも硬化するようです。
これで自作検出器のコアは完成です。
ここまでしておけば、あとの工程は後日でもOK。PDが入っていた袋に乾燥剤と一緒に入れて保存しておけば大丈夫です。
●CsI結晶の白テーピングと遮光(所要:慣れれば5分間/個)
CsI結晶全面に白いシールテープを巻いて、ブチルゴムテープで遮光します。この作業は思いのほか検出器の性能に影響します(下のほうに関連記事あります)。
いちおうCsIには直接手で触らないように注意しながら、シールテープを丁寧に巻きます。なるべくシールテープがCsIに密着するように、軽くテンションかけながらきっちり巻きます。
巻き終わったら、ブチルゴムテープで密着巻きします。ここ、電工テープだと密着させにくいのでブチルゴムテープを強く推奨なのですが、電工テープでも出来ないことは無いと思います(私はやってみたことないので詳細不明)。
ブチルゴムテープって、伸ばしながら巻きつけるのですが、これがよぅ密着するんですわ。どんな感じなのかをYouTubeに上げました。肝心の手元が映ってませんがこれは企業秘密ってわけでなく、単にカメラセッティングをミスっただけです(笑)。
きっちり巻き終わったらお疲れ様! 自作シンチレーション検出器の完成です。
■自作シンチレーション検出器性能評価
ポケガ基板ベースで評価した結果と、自作OPAMP回路(別頁で紹介)で評価した結果をご紹介します。
評価方法:
iPod touch Gen4 上で、ポケットガイガーPro(ポケガ用端末ソフト)を使って空間放射線量を測定した際の cpm 値を得る。
ポケットガイガーProの閾値は、ポケガ接続時はデフォルトのまま。それ以外の検出器を接続した時は、RMS値の5倍程度を設定する。
空間線量測定は、20分間以上行う。
結果:
こんな簡単なものでも相応の効果があります。ポケガのPD換装では約10倍の感度up。今まで20分間かかっていた空間線量測定が、2分で終わります。
自作OPAMP回路に至ってはノーマルポケガ比で約100倍。空間線量でも15秒間の測定でほぼ安定します。
■今までに自作試行したシンチレーション検出器について
雑談のノリでつらつら書いてみます。
キモは、PDとCsIの接合です。
はじめのうちは、巷の製作記事を参考に、放熱用の透明シリコングリスを使って、PDとCsIを光学的に結合することで使っていたのですが、これ、はじめのうちはよいのですが数日経つと動作が不安定になってきます。
結局これ、接着しているわけではなく、PDとCsIの間に入っているシリコングリスとテーピングにより密着しているだけなので、なにかの拍子にすぐはがれかかってしまうのです。
はがれかかると一気に放射線計数率が低下し、全く使い物になりません。
そこで、光学的にちゃんと「接着」するためにはどうしたらいいのか。吸湿で固化するタイプの接着剤は、CsIの光伝導面の潮解を誘発しそうなので却下。光学的に伝達ロスが低くなければならず、しかも、身近にあるもので・・・
いろいろ考え実験した結果、今の時点のbestな接着方法が「ピタガラスによる接着」ということです。