注:本コンテンツ中に出てくる「ポケットガイガー」「ポケガ」とは、radiation-watch.orgが企画販売するスマートフォン接続用の線量計「PocketGeiger」(Type-1)のことを指しています。2012年4月より秋月電子で取り扱いのはじまった「ポケットガイガーキット」とは異なりますのでお間違いなきよう。
シンチレーション型線量計を作り始めたときは、自作検出器の動作確認にポケガを使っていたのですが、ポケガは「安価」に「正確」な「線量測定手段」を世間に提供することを目的として設計製造されているものなので、実験プラットフォームとして見た場合、性能限界が低いことは確かです。
ポケガはガンマ線のPD直撃波を検出できさえすればよいのでそのような回路仕様になっているのですが、ポケガの検出器をシンチレーション化してさらに性能を追い込もうとした場合、S/NとOPAMPの速度が問題となってきます。PDからの電気信号は、ガンマ線のPD直撃波パルスに比べて、シンチレーターの発光を捕らえたPDパルスのほうがはるかに微弱なんですね。
私自身、ポケガ基板で自作検出器を使い、ガンマ線のエネルギーレベル分離(= 核種同定っぽいこと)を試みたのですがどうもうまく波形が分離できず、ためしに少し高速なOPAMPを使って回路を作ってみたらこれがなかなか良好な性能を示しました。
ここでは、そんな自作OPAMP回路をご紹介したいと思います。フロントエンド全段ディスクリートで起こした超ローノイズチャージアンプもあるのですが、部品入手が超困難なのでまずは「今でも」容易に入手できる部品だけで作ることが出来る、少しだけ高性能な回路をご紹介します。
部品代は、ケース除けば千円しないぐらいです。どうです? お安いでしょ?
なお、これらアンプ回路については日々実験を繰り返しており、回路定数の変更等も頻繁に行っています。今後、簡単で、もっと性能のよい回路が見つかれば、随時更新していきます。
本コンテンツを書き終えて公開しよっかな~なんて思っていた矢先(4/12 の夕方)、新規に激しく実験してみたい回路が発生してしまったので、将来このアンプ回路は大幅改定される可能性があります。
「放射線回路とシステム」(昭和50年6月25日初版 定価2800円)というこの本、絶版で古本屋さん巡りしても見つからず、オンライン本屋さんでたまにhitしても3万4万はアタリマエ。『1万円以下でどこかにないかな~』と、いっつも頭の片隅においておくモードで日々生活していたら遂に発見! 速攻保護しました。
まだ、ぱらぱらぱら・・・と、見ただけですが、それだけでも今まで自分が作ってきた放射線測定回路を全部作り直したくなると思うだけのインパクトがあります。じっくり勉強します。
というわけで、この本を一通り読み終えるまでいったん公開を延期しようかとも思ったのですが、そんなこと言ってたらいつまで経っても公開できないので、「現時点でのbetter版」ということで、公開することにしました。
勉強してもし新規に回路を起こすようなことがあれば、またご紹介します。
アナログ回路ってお金かけようと思えばいくらでもかけられるので際限なくなっちゃうのですが、ここでは、今まで私が実験した中で、簡単に作れてコストパフォーマンスが良好だと思われる回路をご紹介します。
もちろん他にもあちこちのWebや書籍、製作記事等に、もっともっとよい回路があると思いますので、あくまでも参考以下程度、「ふーん、こんなの作っているヤツも居るんだ」程度にお読みいただけると嬉しいです。
とは言えこの手のOPAMP回路はだいたい相場が決まっていて、みな一見おんなじような回路になります。ここでは、そんな回路を組む際に注意すべき点などについても触れたいと思っています。
本回路のことを、以下、バーブラウンアンプと呼びます。
ポケガやあちこちの製作記事でよく見かけるLMC662は、単一電源で動いて低消費電流(1.0mA以下)なのが実に嬉しいのですが、いかんせん速度が遅い。これだと、パルスを数えるだけのPD直撃ガンマ線検出ならいいのですが、シンチ検出器からの波高を正確に捉えるには力不足です。また、その特性からローノイズ化にも限界があります。
PDからの信号をJ-FETのハイインピーダンスバッファで受けることでPDの端子間容量キャンセル&ローノイズ化を狙い、LMC662よりもかなり高速なOPAMPであるバーブラウンOPA2604APで信号増幅する・・・という構成の回路をご紹介します。
私が試行した中では今のところこの回路が安定して動作し、性能もまぁ満足。温度依存性も低いです。ポケガProのMCA機能で、波高分析(Ba133 : 356 KeV と Cs137 : 662 KeV、K40 : 1460 KeV が分離できる)もそこそこできる程度の性能を持っています。
欠点は、プラマイ電源が必要で電池大食いなこと。持ち運んで屋外で使用することを念頭に消費電流を考慮したのですが、それでも 006P x 2 で、11 mA x 2 の消費電力。006Pアルカリ電池を使っても30時間程度の駆動でへたりはじめます。
出来上がったバーブラウンアンプは、基板全体をシールドする必要があります。よって、完成形をイメージして(どのぐらいの大きさにしたいか?)、基板サイズ、部品レイアウトを考えておく必要があります。
私はこれを自作検出器の評価プラットフォームにするつもりだったので、写真の通り、大きさにかなり余裕のある紅茶かなにかが入っていた缶の中に入れて使っています。缶本体はバーブラウンアンプのGNDに繋げるのはもちろんですが、缶の蓋も、本体と配線で接続されています。缶の蓋を閉めただけでの電気的接続では充分なシールド効果が得られませんでした。缶のコーティング&塗装が、接触抵抗を増大させているためでしょう。
今後これをベースに、食品の簡易放射能検査器を作ろうと思っているのですが、そのときには相当小型化する予定です(フリスク2段重ねぐらい)。
PD周辺の配線には注意が必要です。ここは非常にハイインピーダンスであり、かつ、微弱信号を扱うところですので部品の選定を含めて細心の注意が必要です。と言っても、私の回路では初段チャージアンプの放電抵抗が47Mオームですから、空中配線するほどの心配は無用です。ガラエポ基板使えば、丁寧な半田付けを心がけて配線すれば大丈夫じゃないですかね。
それよりも部品配置に気をつけてください。私がここで言うまでもないのですが、無用な信号回り込みを避けるため、配線や部品が重なったり、不必要に折りかえったりしないようにしてください。
私は念のために、PD周りと初段チャージアンプ周りは少しでも熱雑音を下げるべく金属皮膜抵抗を使ってみましたが、ここも、普通の抵抗でも大丈夫じゃないかな。でも、47Mオームはできれば金属皮膜抵抗を使ってください。
2段目の部品は全部汎用品で可です。出力についている2.2Kオームは、私が使っているiPod touch Gen4 への入力レベル調整のために入れました。これないと、ポケガPro上のMCAで、K40の出すガンマ線 1.46 MeVがスケールアウトしてサチってしまうため、電圧レベルを1/2にしています(iPod touch側のマイク入力インピーダンスが 2Kオームぐらいなため)。
こちらで作った自作シンチレーション検出器をこのバーブラウンアンプに繋げて動かしてみた結果が以下の通りです。同じ自作検出器を使い、ポケガ基板とバーブラウンアンプとで計数率を比較してみました。
S/Nと、速度の差です。
ポケガ基板はもともと、ガンマ線がPD直撃した際にPDが出す信号を検知することを目的としています。PD直撃波は比較的出力レベルが高いので、ノイズとの分離が容易です。
一方、PDにCsIを貼り付けた自作シンチレーション検出器から出てくる信号は、ガンマ線がPD直撃した際にPDが出す信号に比べてはるかに小さい信号成分が多いので、信号がノイズに埋もれやすくなります。
アナログ回路系のノイズレベルの差が、検知できる放射線数にダイレクトに影響するわけです。
誤解のないように補足しますが、ポケガ基板の設計が悪いというわけでは全くありません。上記の通りポケガ基板(Type-1)は、PD直撃波を検出するために必要充分な性能を持ち、かつ、なるべく安く、低消費電流で動くような設計がなされており、ポケガの目的にはまさに最適な設計だと言えると思います。私の実測でも通電電流 1.0 mA以下ですから、006P電池1個で、どんなにワーストな状況でも300時間以上余裕で動くハズです。
ポケガ基板にシンチ検出器をつけちゃうなんてのが(>私)、どう見ても本来の目的外ってことですね。
ここにFETがなくて、OPAMPにPDがダイレクトに入っている回路をよく見かけますし、浜ホトのサンプル回路(右:リンク先は浜ホトサンプル回路集のpdf。参考になるよ)も、そういう構成になっています。
まぁ難しい話はおいておくとして、とにかく実験データをご紹介しましょう。
バーブラウンアンプは性能はそこそこですが、とにかく廃電池の山があっという間に出来上がります。家で使うときは外部電源でなんとかするとしても、外で使うときはどうしようもありません。
そこで、ポケガ基板に再び登場いただき、これにJ-FETバッファ回路をつけるとどのぐらい性能upが期待できるのかを実験してみました。
基本思想はバーブラウンアンプと同じです。PDの信号をまずはFETで受けて、OPAMP見えの入力信号源の容量を減らしてローノイズ化期待。但し今回は、既存のポケガ基板を改造してFETをのっけますから、若干細かい改造処理が必要となります。
だったらわざわざポケガ使わないで、バーブラウンアンプのOPAMPをLMC662に換装すればいいんじゃないの? という声が聞こえてきそうですがまさにその通り! あなたのおっしゃる通りです。
ここでは根性でポケガ基板を改造しますが、わざわざ改造するために新規にポケガを買う必要は確かにありませんから、LMC662使って自分でユニバーサル基板で作っても全く無問題です。
ポケガ基板を使うことのメリットは・・・はじめにポケガとしての動作確認を行っておくことで、「確実に動作していた実装回路基板をベースに改造できる」という点(のみ)でしょうか。
●ポケガ改造箇所
ポケガType-1回路図は、ポケガProを買うと付いてきますのでそちらを見ていただくとして、ここでは改造箇所をご紹介します。
写真の基板に赤丸印を付けた箇所が、重要ポイントです。PDエリア直近で一番配線しやすそうなGNDは、R2です。R3は、取っ払ってもいいのですが基板を痛めるといけないのでついたまま浮かせておいて、R3のホット側に2SK192A-Yの足をくっつけるのがいいと思います。
2SK192A-Y のソースに入っている抵抗値を、1K から 4.7K に変更しました。1K だとちょっとドレイン電流が流れすぎみたい。(2012年 4月21日追記)
ま、こんな感じで適当に各人自己責任でよろしく改造してください。
●結果